第11回 「文楽」鑑賞会
・日時:平成28年7月24日(日)午後2時〜6時30分
・会場:国立文楽劇場

平成18年に始まった文楽鑑賞会も今回で11回目を迎えました。この間、鑑賞した演目も15作を超え、いろいろな趣向の作品を楽しんできました。昨年の「生写朝顔話」は、すれ違いの悲恋物語を中心に、お馴染みの主従の忠義悲話、それに、珍しく笑いの場面も多く織り込まれた作品でした。そして、今年は、打って変わって真夏にふさわしい怪談とアクションものという趣向の作品でした。
怪談の方は「薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)」の「豆腐屋の段」、「埴生村の段」、「土橋の段」、アクションの方は「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」の「古市油屋の段」、「奥庭十人切斬りの段」でした。

俄か勉強ですが作品の解説をします。江戸時代、現在の茨城県常総市羽生町の鬼怒川沿いの累ヶ淵というところを舞台にした、累(るい、かさね)という女性の怨霊とその除霊をめぐる物語が広く流布しました。それを題材にして多くの作品が作られましたが、「薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)」もその一つで歌舞伎と文楽で作品化されました。
落語では三遊亭円朝作の「真景累ヶ淵」が有名です。
「薫樹累物語」は有名な伊達騒動の話と累ヶ淵の怨霊話を合体させたものです。伊達綱宗
がモデルの足利頼兼や高尾太夫の名が出てくるのはそのためです。主君頼兼とお家の安泰のために、忠義心で凝り固まった絹川谷蔵という相撲取りが、罪のない高尾を殺してしまい、それが悲劇の元となります。高尾の怨霊が妹の累にとりつき、美しい累は醜い容貌に変わってしまいます。それからの悲劇の物語は、あらすじと言ってもあまりに長くなってしまうので、ここでは省略し感想のみにとどめます。
今までいろいろな作品を鑑賞してきて感じるのは、作品の時代の「忠義第一」の考え方です。この作品でも、すべての悲劇は主君大事の忠義心から起こるのですが、武士階級でない一般庶民にもそれは共感されることだったのでしょうか。

もうひとつの「伊勢音頭恋寝刃」は、寛政年間に実際に伊勢古市の遊廓「油屋」で起こった、客の医師が酒のうえから9人を斬ったという大事件をもとに、すぐに歌舞伎に仕立てられた作品で、その後人形浄瑠璃にも作品化されました。文楽では今回観賞した二段だけのようです。
これもあらすじは省略しますが、クライマックスは「奥庭十人切斬りの段」での、妖刀「青江下坂」を手にした福岡貢の大立ち回りの殺人劇。逆上している上に妖刀に頭脳を支配されたのか狂気に陥入り、暗がりの中、手当たり次第の殺人が止まらない。挙句は罪のない子女郎や客まで、手や足を切り飛ばすわ、首を刎ねるわで、無差別テロさながらの惨劇、いくら何でもやりすぎではの印象でした。
また、「古市油屋の段」の三味線は7代目鶴澤寛治師匠、87歳ですが飄々としながらも見事な撥捌き、さすが人間国宝と感じ入りました。

両作品のあらすじは、ネットで床本を探し出しましたので、興味をお持ちの方は下記でご覧ください。
「伊勢音頭恋寝刃」の「奥庭十人切斬りの段」ですが、10人斬りとありますが、どう数えても9人なのが気になります。お暇な方は数えてください。

「薫樹累物語」

「伊勢音頭恋寝刃」







今回の参加者はゲストを含めて28名でした。
現在までの鑑賞記録です。